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心の能力を高める「メンタルトレーニング」とは
目次「『ゾーン』に入るための支援」「メンタルトレーニングの内容」1P
「明確な目標が、集中力や自信につながる」「知恵を生み出す『心の整理』」2P
スポーツ選手が本番で持てる力を最大限に発揮している状態を「ゾーン(ピークパフィーマンス)」と呼びます。そのためには、練習で体を鍛え技を磨くだけでなく、集中力や感情コントロールなどの心の能力を高めることも必要です。福島大学教授の白石豊先生は、メンタルトレーニングの指導によって、心理面から選手がゾーンに入るサポートをしています。その内容は、スポーツ関係者だけでなく、人を育てる仕事をするすべての人にとって参考になるはずです。
「ゾーン」に入るための支援

 福島大学教育学部教授の白石豊先生は、スポーツ運動学的な視点から体育授業をとらえなおす研究をしています。また、主に体操競技の運動技術の研究に取り組み、選手の競技力向上に貢献してきました。

 こうした研究や学生への講義以外に、白石先生は現場で各種目のトップスポーツ選手にメンタルトレーニングの指導を続けてきました。そのトレーニングの内容は、ヨーガ、禅の修行などの東洋的手法を応用したユニークなものです。

 1999年、白石先生は、新体操ナショナルチームのメンタルコーチに就任しました。5ヶ月後に開かれた、シドニーオリンピックの予選にあたる新体操世界選手権では、日本チームは見事に4位を獲得。団体として初めてのオリンピック出場を決めました。この時の演技について、代表選手の1人は次のような手記を残しています。

「観客の声援がプレッシャーでなく、私の中でエネルギーに変わっていくのがわかりました。こんな気持ちは初めてでした。緊張感はありましたが、それより踊っていることの喜びや、新体操の楽しさの方がとても大きく、あのヘルニアの手術から、あきらめずにやってきて良かったと心から思いました」(*1)

 この選手は、世界選手権の約1年前に椎間板ヘルニアの手術を受けました。懸命なリハビリで少しずつ回復に向かいましたが、思い通りに動かない体に腹を立て、一時は意欲も自信も失って代表を辞退することさえ考えたといいます。しかし、白石先生のメンタルケアによって次第にやる気を取り戻し、本番では自らの能力を最大限に発揮。手記にもあるような「ゾーン(ピークパフィーマンス)」と呼ばれる状態で演技することができたのです。
 選手が本番でゾーンに入れるようにサポートすることが、白石先生のメンタルトレーニングのねらいです。その具体的な内容は次の通りです。
1心の能力(メンタルスキル)をチェック
スポーツ選手に必要な7つのメンタルスキル、意欲、自信、感情コントロール能力、イメージ想起能力、集中力、リラクセーション、コミュニケーションスキルについて評価、分析し、現状を把握。どのメンタルスキルを強化するかを決定する
2目標設定
適切な目標を小刻みに設定する。目標を確実に達成することは選手の自信にもつながる
3朝の心身調整プログラム
朝食の前に行うトレーニング。体をほぐし、心を整える
4感情コントロール
5集中力アップ
6心の整理法
 こうしたメンタルトレーニングを実施するにあたって、白石先生は選手とのコミュニケーションを大切にしていると話してくれました。

「周りからの言葉かけによって、その人のセルフイメージ(自己像=自分らしさ)は左右されます。プラスの言葉かけはプラスのセルフイメージをつくり上げ、自信を強めることになります。たとえば選手が失敗した時でも、『転んだら立てばいいんだよ。もう一度立ち上がるだけでも強くなれるんだから』と声をかけるようにしています」

 また、選手のやる気や自主性をのばすためにも指示や命令を避けて、答えやすい問いで話しかけています。

「野球でエラーをした選手に『何やっているんだ。前にダッシュして捕れ』とどなりつけることが多いのではないでしょうか。そうでなく『前にダッシュしていたか?ボールを捕る時に腰は落ちていたか?』と声をかければ、選手は自分で考えて工夫します。そして次にうまくできた時には、すかさずほめる。ほめられるような結果が自然とでるような工夫が指導者に求められていると思います」

 白石先生が選手のメンタル面をチェックする上で一番重視していることは、1対1でじっくり話を聞くことだといいます。

「相談に来る選手は、必ず何か心の問題をかかえています。その問題を理解するためにも、とにかく選手の話をただ聞くことだけを心がけています」

 相手の話に耳をかたむけるべく努力をすることは大切なことです。しかし、そこに「なんとか聞いてあげないといけない」という気持が見えてしまうと、相談者は自分の本音を言いづらくなります。ただ話を聞いてくれる白石先生のような存在こそが、悩みをかかえた選手には必要なのでしょう。

引用文献
(*1)白石豊・脇元幸一共著 「スポーツ選手のための心身調律プログラム」 大修館書店
白石豊先生白石 豊(しらいし ゆたか)先生
福島大学教育学部教授、専門は運動学、メンタルマネジメント、器械運動。各種目のトップスポーツ選手に対する東洋的手法を応用したメンタルトレーニングの指導で成果をあげている。アトランタオリンピック日本女子バスケットボールチームやシドニーオリンピック新体操チームのメンタルコーチなどを歴任。国際体操連盟スポーツ科学委員会委員、日本体操協会安全・スポーツ医科学委員会常任委員などを務める。著書は「スポーツ選手のための心身調律プログラム」(大修館書店)など。
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